Share

第175話  好きって言葉の、置き場所

Penulis: 菊池まりな
last update Tanggal publikasi: 2026-09-29 13:00:54

昼休み。

社内カフェはいつもより少し騒がしかった。

朱里はサラダとスープをトレイに乗せ、端の席に座る。

噂は落ち着いたようで落ち着いていない。

誰も直接聞いてこない代わりに、空気だけが

探ってくる。

(……疲れる)

スプーンを動かしていると、影が落ちた。

「中谷先輩、ここいいですか?」

望月瑠奈だった。

断る理由はない。

断ったら、余計に意味がついてしまう。

「どうぞ」

瑠奈は向かいに座り、アイスコーヒーのストローをくるくる回す。

少しだけ、いつもの勢いがない。

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。   第192話  時間だけが、先に動き出す

    朝のオフィスは、いつもより少し騒がしかった。「ねえ聞きました?」 「やっぱり、決まりそうなんですね」 「正式発表、来週らしいですよ」コピー機の前、給湯室、通路の端。小声は意外なほど遠くまで届く。中谷朱里は、パソコンを立ち上げながら、周囲のざわめきを“聞こえないふり”をしていた。(……来たな)昨夜、美鈴が言っていた言葉が脳裏をよぎる。――次からは、“選ぶ話”。画面に映る業務メールを確認していると、社内チャットの通知が一件入る。【人事部より:来週月曜、全体朝会を実施します】短い一文。けれど、それが意味するものは重かった。(転勤の、正式発表……)胸の奥が、じわりと冷える。まだ決まっていないはずの未来が、勝手に日付を持ちはじめる感覚。「先輩」顔を上げると、望月瑠奈が立っていた。いつもの明るさはそのままなのに、今日はやけに真っ直ぐな目をしている。「……何?」「平田さん、来週から忙しくなりますよね」その言い方は、質問というより確認だった。朱里は一瞬、言葉に詰まる。「さあ……どうだろう」瑠奈は首を傾げる。「でも、時間は待ってくれませんよ」悪意はない。

  • 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。   第191話  答えを急がない、という選択

    夜。キッチンの照明だけが点いた部屋で、朱里と美鈴は向かい合って座っていた。テーブルの上には、温くなりかけたマグカップが二つ。「……で」美鈴が先に口を開いた。「結局、どうなったの?」朱里はスプーンでカップの縁をなぞりながら、少し考えてから答えた。「何も、決まってません」「うん」「でも……何も言わずに終わった、って感じでもないです」美鈴はそれを聞いて、ふっと息を吐いた。「朱里らしい答えですね」「そうですか?」「ええ。全部言って全部決めて全部背負う、ってやり方。 昔の朱里なら、無理してやってた」朱里は苦笑した。「……今回も、やろうとしました」「でしょうね」間髪入れずに返されて、朱里は肩をすくめる。「でも、途中で分からなくなって。 “今の私が言えること”と、“まだ言えないこと”があるって」美鈴は黙って聞いていた。評価もしない。結論も出さない。ただ、親友としてそこにいる。「嵩さんは?」「……前に進もうとしてる顔でした」「それで?」「それを見て、ちょっと安心して、ちょっと怖くなりました」正直すぎる言葉が、ぽろりと落ちる。

  • 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。   第190話  踏み出した人だけが聞こえる音

    中谷朱里は、スマートフォンを伏せたまま、しばらく動けずにいた。 画面に表示された嵩からの短いメッセージは、もう何度も読み返したはずなのに、胸の奥でまだ反響している。 ——ありがとう。 ——あのとき、言われなかった言葉に救われました。 それだけだった。 理由も説明も、感情の整理もない。けれど、朱里には十分すぎるほどだった。 「……そうか」 誰に向けるでもなく、小さく呟く。 伝えなかったことが、誰かを前に進ませることもある。 それは、勇気を出して話すこととは別の、もうひとつの選択だったのだと、今さらながら実感する。 キッチンから、田中美鈴の声がした。 「朱里ー、そろそろ行く時間じゃない?」 「はい、今行きます」 立ち上がり、コートに腕を通す。 鏡に映る自分は、少しだけ表情が柔らいで見えた。 「……よかったですね」 ふいに、美鈴が言う。 何のことかは聞かなくてもわかる。 「はい。でも、何かが終わったって感じじゃなくて」 「うん?」 「始まった、というほどでもなくて……ただ、ちゃんと“今”に戻ってきた感じです」 美鈴は一瞬考えてから、笑った。

  • 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。   第189話  言われなかった言葉の、その先へ(五)

    定時が近づくにつれて、 朱里の集中力は、少しずつ削れていった。 時計を見るたびに、針が進むのがやけに遅い。 (あと一時間……三十分……) 仕事は終わる。 でも、今日の本番はその先にある。 「中谷」 低い声に、肩が小さく跳ねた。 振り向くと、美鈴が立っていた。 いつも通りの、落ち着いた表情。 「今日、定時で上がれる?」 「……はい。大丈夫です」 朱里の答えを聞いて、美鈴は一瞬だけ視線を細めた。 「そう。じゃあ、無理しないで」 それだけ言って、去っていく。 詮索も、励ましもない。 でも―― (知ってる) 美鈴は、何かを察している。 それを言葉にしないのも、彼女なりの距離の 取り方だ。 午後六時。 PCをシャットダウンし、立ち上がる。 周囲の音が、いつもより遠く感じる。 エレベーター前に向かう途中、 ふと視線を上げると―― 嵩がいた。 壁際

  • 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。   第188話  言われなかった言葉の、その先へ(四)

    午後三時過ぎ。 朱里は画面に向かったまま、マウスを握りしめていた。 資料の文字はちゃんと目に入っている。 入力も、確認も、できている。 ――なのに。 スマートフォンが、机の上で震えた。 それだけで、思考が一瞬止まる。 (……違う、仕事中) そう思いながらも、 視線はもう、スマートフォンのほうへ落ちていた。 画面に表示された名前。 平田嵩 胸の奥が、きゅっと縮む。 通知を開くまでに、三秒。 その三秒が、やけに長い。 《今日、帰りに少し話せる? 重い話だけど、ちゃんと向き合いたい》 短い文章。 言い訳も、逃げ道もない。 朱里は、すぐに既読をつけなかった。 (……来た) 昨日の夜、 「全部言わない」と決めたはずなのに。 いざ“話す”が現実になると、 心臓が一気に騒ぎ出す。 重い話。 分かっている。 きっと、転勤のことだ

  • 大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。   第187話  言われなかった言葉の、その先へ(三)

    送信してから、ほんの数秒。 それだけで、嵩は自分がどれだけその返事を気にしているかを思い知らされた。 スマートフォンを伏せたまま、指先だけが落ち着かない。 机の上で、無意識にペンを転がす。 (返事は、すぐじゃなくていい) そう思って送ったはずなのに、 「すぐじゃなくていい」という言葉は、 “いつでもいい”と同じではないことを、今さら理解する。 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。 嵩は立ち上がり、給湯室へ向かった。 コーヒーを淹れる必要なんて、もうないのに。 そこで、望月瑠奈と鉢合わせる。 「あ、平田さん」 いつも通りの声。 いつも通りの笑顔。 でも、今日は少しだけ、視線が鋭かった。 「今日は……なんか、静かですね」 「そうかな」 「はい。静かというか……考え事してる人の背中です」 図星すぎて、笑うしかなかった。 「よく見てるね」 「後輩ですから」 冗談めかして言いながら、瑠奈はマグカップを持つ手を止める。 「……中谷先輩と、何かありました?」

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status